福島潟で越冬するオオヒシクイはどこから来る?
人工衛星を使った、オオヒシクイの繁殖地調査
遥かカムチャツカへ2,400kmの旅
福島潟は豊栄市の鳥で天然記念物であるオオヒシクイ(オオヒシクイはヒシクイの1亜種)の飛来地です。オオヒシクイは遠くロシア、カムチャツカ半島から9月下旬に渡ってきますが、その繁殖地は、明らかになっていませでした。豊栄市では、これまでもオオヒシクイをはじめとする福島潟の環境保全活動を行ってきましたが、越冬地の保全のみならず、繁殖地、換羽地、中継地の保全が重要であるとの認識から、オオヒシクイの渡りの経路やその繁殖地を探るために、1997年度から小型発信機を使った繁殖地調査を行ってきました。
オオヒシクイの渡りのルートを追跡
調査は「財団法人山階鳥類研究所」に委託、「日本雁を保護する会」等の協力を得ながら、福島潟で越冬するオオヒシクイをロケットネットで捕獲、小型発信機を取り付けて放鳥し、電波をたどる形で福島潟から繁殖地までの渡りのルートを追跡するものです。
少しずつ明らかになる渡りのルート
1998年度は、前年度の経験をふまえ、捕獲時期、発信機の装着方法、地上受信用発信機の追加などの変更を加え、1999年1月29日より調査を開始。2月2日、前年度とほぼ同じ場所で、16羽のオオヒシクイの捕獲に成功し、10羽に人工衛星追跡用小型電波発信機と地上受信用小型電波発信機を尾羽に装着、5羽に地上受信用小型電波発信機のみを尾羽に装着、即日放鳥しました。
発信機を装着したオオヒシクイは2月中旬に福島潟を出発、八郎潟に約1カ月滞在、3月中旬には青森県を経て3月下旬に北海道に到着しました。また、越冬期に福島潟から朝日池(西南約100km)や八郎潟(北約240km)へ往復移動することが認められました。
さらに、北帰行時には北海道の鵡川から十勝川下流域を通る東よりのコースと長都沼(千歳市と長沼町)から天塩川河口部を経る西よりの2つの異なるコースをとるものがいることなどが判明しました。一旦天塩川まで北上したものの、積雪が多く、再び長都沼に戻る行動も認められました。日本を離れるまで追跡できたのは2個体で、北海道天塩川にA31が1999年4月20日まで、A24が同28日まで滞在しました。
北海道を発ったオオヒシクイは、オホーツク海を北東方面に移動し、カムチャツカ半島中部の西海岸付近に到着し、しばらくは短距離の移動を繰り返しましたが、両個体とも5月初旬には移動しなくなり、最終到着地点は、ハイリュゾバ川A24とアナバ川~ラソシナ川A31でした。福島潟から直線距離で約2400kmであり、福島潟をたってから約80日後のことでした。
調査団、カムチャツカ半島に渡る
オオヒシクイがロシア・カムチャツカ半島に入ったことが人工衛星からの電波で確認されたのを受け、世界で最初のオオヒシクイ繁殖地発見を目指して、市民、NGO、企業、行政の協力のもとで組織された「豊栄市オオヒシクイ繁殖地調査団」が6月7日、ロシア・カムチャツカ半島に向けて出発、現地での調査を行いました。
現地調査はハイリュゾバ川、アナバ川、ラソシナ川の流域とし、同地域をヘリコプターを使って上空から、地上受信用小型電波発信機から発せられる電波を捜索、受信できた場所で地上に着陸、付近の捜索などを行いました。
15日までの間、延べ1,600kmに及ぶ空中捜索をおこない、その間2羽のオオヒシクイからの電波を受信、地上での捜索を行いましたが、繁殖地の特定はできませんでした。
ヒナをつれたオオヒシクイ
16日から、それまでの上空からの環境観察や現地研究者の意見、人工衛星追跡の軌跡などからアナバ川支流域にキャンプを移動、捜索範囲を同地に絞り、地上で繁殖の兆候を調査した結果、同日キャンプ地付近でオオヒシクイの卵殻2個を発見、17日午後、川の中で、ヒナ6羽を連れたオオヒシクイの家族を発見、写真撮影及び映像撮影にも成功しました。
繁殖地の様子
確認されたヒナが孵化後3~4日後と推定されたことから、この付近がオオヒシクイの繁殖地であることが確認されました。位置は56゜07’N、156゜58’Eでした。
発見された場所は、大平原の中を流れる河畔林のある川の付近で、川幅は5m前後、川の深さは40cmから1m位で、ヒナは川岸のスゲ類を食していました。
今回の調査の結果、福島潟で越冬するオオヒシクイの繁殖地ならびに春季の渡りの経路や途中の中継地などがはっきりしました。今シーズンも、今春、カムチャツカで誕生した子ども達と連れ立って、鍵になり竿になり、はるばる2400kmの旅を渡ってきました。